紅葉が見頃の北信濃、小布施町にある日本のあかり博物館ㇸ思いで深いアストラルランプに会いに行きました。このランプは11代将軍徳川家斉への「かぴたん献上目次」文政九年(1826年)に記されている[ヲルゴル附火燈一対]と同じランプと思われています。
(財)日本のあかり博物館の詳しい内容はこちらです。
日本のあかり博物館へ行く
11月1日、朝8時に自宅から車で長野に向って出発。目的は1対のアストラルランプと他の前石油期のオイルランプに会うためです。
特別企画展期間は
2022年2月に閉館した神戸らんぷミュージアムの多くの所蔵品が日本のあかり博物館に継承されました。詳細はこちらで読んでください。
現在は特別企画展が以下の日程で開催されています。
期 間 | |
第1期 | 2022年9月30日(金)~11月29日(火) |
第2期 | 2022年12月2日(金)~2023年3月7日(火) |
アストラルランプ
点灯時に影をなくす試みをし、油槽を中空の環のようにして2本の油送管でバーナーへ左右から重力で油を補給するように工夫されたオイルランプです。1808年、フランスのマルセルがこのランプを吊りランプにし、アストラルランプとなずけました。アストラルとは星のように照らすという意味です。このランプを卓上型にしたのがフランス人のショパンでショパンの冠ランプと言われています。
Les lampes a’ huile
Bernod Hahot Massin Editeur 2005 より
アストラルランプを探す
私が西洋燈火器専門の骨董屋になると決めた時から、当然ながら前石油期のオイルランプも仕入れ始めました。初めにモデラトールランプを入手した後は、その他のオイルランプを見つけることに苦労しました。最初に手にしたアストラルランプは笠のないブリキ製のランプでした。
このランプは長年探し求めていたという、照明文化研究会、元副会長の故大谷氏に渡りました。大谷氏は昭和42年に渡辺崋山が描いた「ビュルゲル対談図」に出会い、この絵に描かれているランプに興味を持ち長く探究し、1992年に日蘭学会会誌第17巻1号別冊に「渡辺崋山の描いたランプについて」詳しくまとめられています。
渡辺崋山 ビュルゲル対談図
(常葉美術館編『渡辺崋山』郷土出版社 平成3年)
1対のアストラルランプ
神戸の故赤木さんより、赤木コレクションが関西電力に譲渡されるので、ぜひ前石油期のランプを赤木コレクションに追加したいので探してほしいと依頼がきました。
今までの買い付け先では簡単に見つけることができなかったランプです。パリのセーヌ川沿いにあるオルセー美術館の近くに高級な骨董品を扱う骨董店がいくつかあることがわかりました。今までに扱ったことのない高級家具、絵画、インテリア品に圧倒され、入店もためらうほどでした。幸運にもその中でオイルランプも扱っている1軒の骨董屋を見つけました。
カルセルランプを1点手に入れ、隣りにあった如何にも高そうな1対のアストラルランプは価格を聞いて写真を撮らせてもらい店を出ました。帰国後に赤木さんへ写真を送り購入するか確認したところ、返事は即答でOKでした。
早速パリの骨董店に連絡して予約し、3か月後にパリに行き無事に入手できました。
1994年の暮れに航空便でランプは届きました。年明けに1対のアストラルランプと他のオイルランプを神戸まで自走で納品予定でしたが、1月17日に阪神淡路大震災が起きてしまいました。結局8月にランプを車に乗せ神戸に行きました。がれきの山があちらこちらにあり、阪神高速道路も通行止めのままで復興するにはまだまだの状況でした。
ようやく神戸らんぷミュージアムは1999年3月に開館しました。早速、照明文化研究会の見学会が催され私も参加しました。今までにない見事なあかりのミュージアムに圧倒されました。私はその中で西洋ランプコーナーの前石油期のランプの展示品の1点1点を思い出し、感無量でした。
アストラルランプと再会
2022年2月28日、神戸らんぷミュージアムは残念ながら完全閉館になってしまいました。多くの灯火器はどうなってしまうのか心配していたところ、小布施にある日本のあかり博物館に譲渡されることが分かり一安心でした。
そして今回の企画展、ほんの一部の展示でしたが例の1対のアストラルランプも展示されており再会できてほっとしました。
まとめ
150年以上前にフランスで作られて、フランスの邸の中で明かりを灯し続け、石油ランプの時代になり過去の遺産になっても大事にパリに保管されていたこのランプは、20数年前に海を渡り日本にやって来た。そして神戸らんぷミュージアムに落ち着いていたが、いま小布施にある日本のあかり博物館に収まっている。この先何年もその姿を輝かし続けていてほしいと願っています。